直訳と意訳どっちがいいの?文書による使い分けについて解説
直訳か意訳か、翻訳者にとっては常に悩まされるテーマです。原文に忠実に翻訳をすると「直訳すぎて読みづらい」と指摘され、読みやすいように工夫して翻訳をすると「原文とニュアンスが違う」といわれることも。
直訳と意訳にはそれぞれ異なる特徴があり、どちらが良い悪いとスッパリ分けられるものではありません。それぞれに適した文書や使用場面があり、適切に判断して調節する必要があります。
今回は、直訳と意訳について、それぞれのメリットやデメリット、適している文書について解説していきます。
直訳と意訳の違い
直訳(literal translation/Word-for-word translation)とは、原文の要素を1つ1つ忠実に翻訳することです。
原文から乖離することなく、書かれていることを過不足なく読み手に伝えられるため、より正確に原文の要素を伝える必要がある文書に向いています。もちろん直訳といってもただ言語を置き換えるだけでは「翻訳」ではありません。原文の要素をあますことなく訳文に盛り込みつつ、なるべく読みやすい訳文に仕上げるのがポイントです。
一方、意訳(Free translation/Dynamic translation)とは、原文に厳密にすることにはとらわれず、文書全体の流れやニュアンスを意識しながら自然で読みやすい文章に翻訳することです。
原文の文法構造や1つ1つの用語にとらわれ過ぎず自然な表現を優先するため、意味の解釈を誤ってしまうと原文から乖離したり、誤訳になってしまうリスクがあります。そのため原文の意味をしっかりとらえつつ、書き手の意図を曲げることなく伝えるという高度な技術が必要です。
直訳のメリットとデメリット
直訳のメリットは、原文を一言一句余すことなく翻訳するため、情報を過不足なく正確に伝えられるという点です。
一方デメリットは、原文に忠実に訳すことを重視するので、文章としてはぎこちなく、読みにくくなってしまいがちということです。
直訳が適している文書
直訳は、厳密に原文に準じて翻訳をする必要がある文章に適しています。こうした文書では、原文の要素が抜けていると「訳抜け」と判断されてクレームになることもあるため、要素の抜け漏れなく正確に翻訳する技術が要求されます。
- 契約書
- 取扱説明書
- 専門書(医薬・特許・法律・工業・金融など)
- 試験計画書・報告書
- 作業手順書
意訳のメリットとデメリット
意訳のメリットは、直訳調では伝わらない原文のニュアンスや、書き手の感情などを伝えられる点です。例えば慣用表現などは、そのまま直訳すると意味をなさないことが多いので翻訳の際は、本来の意味がすんなり伝わるように意訳が必要になります(ただし文書や前後の文脈によっては、あえて直訳するということもあります)。
一方、意訳のデメリットは、一語一句にとらわれずに翻訳をするため、情報伝達の正確さという点では直訳調に劣る場合があるということです。また、翻訳者の主観が入ってしまい、原文のニュアンスが変わってしまうリスクもあります。
意訳が適している文書
意訳は、やわらかめの表現など、読み手にとってできるだけ自然で読みやすくしたい文書に適しています。
- パンフレット
- 雑誌記事
- 広告
- ニュース
- ブログ
- 小説 など
いろいろな翻訳手法
直訳と意訳のほかにもいくつかの翻訳手法があります。ここでは、直訳と間違われ気味な「逐語訳」や、最近よく聞く「トランスクリエーション」、「超訳」について紹介します。
逐語訳
逐語訳(逐字訳)は、原文の語順通りに並べてそのまま訳す翻訳です。
例えば「I read a book」を直訳すると「私は本を読む」ですが、逐語訳では「私は 読む 本を」となります。
トランスクリエーション
トランスクリエーション(transcreation)は翻訳(translation)と創造(creation)を組み合わせた造語で、マーケティング翻訳ともいわれます。
翻訳とコピーライティングを同時にやっているイメージで、伝わりやすさや読み手の注意を惹きつける訴求力が求められます。
“Intel inside” 「インテル、入ってる」などが有名ですよね。
超訳
超訳は意訳をさらに推し進めた翻訳手法で、わかりやすさや読みやすさを重視するために、ときには思い切った原文の省略なども行います。もちろん原文にそっていることが原則です。
難解な原文でも、超訳ではすんなり内容が入ってくるように読みやすく翻訳されています。
超訳された書籍などもたくさん出ています。
超訳 ニーチェの言葉
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
著者:フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ
翻訳:白取春彦
超訳 カーネギー 人を動かす
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
著者:デール・カーネギー
翻訳:弓場隆
まとめ
直訳と意訳はそれぞれの特徴があり、どちらが正解ということではなく、状況に応じて使い分ける必要があります。文書の使用目的や読者層などを意識しながら、適切に使い分けましょう。直訳が好まれる文書の中で、やむを得ず思い切った意訳をする場合は「◯◯のためこの部分は意訳しました」と、該当箇所にコメントを残しておくと親切です。
翻訳会社から依頼を受ける場合、直訳調か意訳調か指示がなく、原文を見ても判断に迷う場合は、事前に翻訳会社に確認しましょう。
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