医薬品開発の流れと発生する翻訳文書について解説
医薬品開発の流れと発生する翻訳文書について解説
こんにちは、かおりちゃんです。
新しい薬を作る際はさまざまな試験を経て有効性や安全性が確認され、国の承認を得てようやく患者のもとに届きます。
日本の薬が海外で製造・販売されたり、海外の薬を輸入するなど、国境を越えた製薬会社の活動に伴って、多岐にわたる医薬文書の翻訳が発生します。
では具体的に、医薬品開発ではそれぞれの段階でどのような文書が発生するのでしょうか?
今回は、医薬品開発の流れと、それぞれの段階で発生する翻訳文書について解説していきます。
1つの医薬品開発にかかる時間は9〜17年!
1つの新薬を開発するまでには、一般的に9〜17年、開発費は約500億円といわれています。
医薬品の候補となる化合物を探すところから、実際に販売するまでには以下のようなプロセスをたどります。
- 基礎研究(2~3年)
- 非臨床試験(3~5年)
- 臨床試験(治験)(3~7年)
- 承認申請(1~2年)
- 製造販売
- 市販後調査
それぞれの開発段階について、発生する文書と合わせて解説していきます。
基礎・探索研究(2~3年)
薬の開発はまず基礎・探索研究から始まります。
ターゲットとする病気に効く化合物を見つけるために、スクリーニングといわれる作業によって膨大な量の化合物をふるい分けしていきます。
こうして見つけた化合物はさまざまな試験を経て新しい薬になるための可能性が検討されます。
しかし多くの場合は期待していた効果を得られず、途中でドロップアウト。
新薬開発の成功確率はわずか25,000分の1という、気の遠くなるような根気のいる作業なのです。
CMC(Chemistry・ Manufacturing・Control)研究
CMCとは、医薬品の原薬や製剤についての化学、製造、分析、品質管理に関わる業務全般を指します。
新薬の候補となる化合物の性質を研究し、医薬品の原薬として安定供給するための製造方法や、品質を評価する試験方法、品質規格の設定などを検討します。
発生する文書の翻訳には化学の知識や医薬品の製造に関する知識など、非常に高い専門性が要求されます。
発生する翻訳文書:
- 試験計画書/報告書
- 安全性データシート
- SOP(標準作業手順書)
- バリデーション計画書/報告書
- 製造指図書
- 製造記録書
- 規格・試験法
- 薬局方
- 分析証明書 など
非臨床試験(3~5年)
新薬候補の化合物をいきなり人に投与して試験するわけにはいかないので、まずは培養された細胞やマウス、イヌなどの動物を対象に有効性・安全性を確認します(非臨床試験)。
この結果によって、候補化合物が人の体でどのように作用するのかを予想します。
非臨床試験には、大きく以下の3種類があります。
安全性試験(毒性試験)
薬がどの容量まで安全なのかを見極める試験。
単回投与や反復投与など、さまざまな方法で薬がもたらす毒性影響についての情報を集めます。
薬効薬理試験
薬効薬理試験は、薬の効果を確認する試験。
薬をどのくらいの量や頻度で投与すれば効果が出るのか調べるとともに、ねらっている効果以外の作用についてもすべて調べ、人に投与した際の有害反応を予測します。
薬物動態試験
投与された薬はすべて体に吸収されるわけではなく、まったく吸収されなかったり、逆に過剰に吸収されたりと、動向はさまざま。
薬がどこを通ってどのように吸収・排泄されるのか、目的の部位までちゃんと届くのか、体の中での薬の動きを検証します。
発生する文書の翻訳には、薬物動態、毒性評価、薬理学など、各専門領域の知識が要求されます。
発生する翻訳文書:
- 薬物動態試験計画書/報告書
- 安全性試験計画書/報告書
- 薬効薬理試験計画書/報告書
臨床試験(3~7年)〜承認申請(1~2年)
動物で安全性や有効性が確認されると、いよいよ人での臨床試験(治験)が行われます。
治験は大きく以下の3つのフェーズに分かれています。
第Ⅰ相(フェーズⅠ)
まずは少人数の健康な成人に少しずつ薬を投与し、副作用などの安全性について確認します。
第Ⅱ相(フェーズⅡ)
第Ⅰ相試験でクリアすべき目標を達成できたら、次に少人数の患者を対象に薬を投与し、有効性や安全性を確認します。
第Ⅲ相(フェーズⅢ)
第Ⅲ相試験では大人数の患者を対象に有効性・安全性を調べます。
既存薬や、プラセボ(有効成分が入っていない偽薬)と、治験薬の効果を比較します。
これらの試験をすべてクリアできたら初めて、厚生労働省・医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認申請を行います。
審査の結果、薬の有効性や安全性が確認されて厚生労働大臣に承認されると、「新薬」として製造販売をする許可が得られます。
このフェーズでは承認申請関連のさまざまな翻訳文書が発生します。
発生する翻訳文書:
- 治験実施計画書(プロトコール)
- 治験薬概要書(IB)
- 治験総括報告書(CSR)
- 同意説明文書(ICF)
- CTD
- 機構相談/照会事項
- 当局通知
- 製造販売承認申請書
- SOP など
製造販売
承認が得られると、実際に薬が工場で製造され、世の中に流通していきます。
医薬品は人の命に関わる製品なので、製造する工場や担当する人によって品質がバラバラでは困ります。
そこで、製造するすべての医薬品が品質規格に適合するように、GMP(Good Manufacturing Practice)、日本語では「医薬品の製造管理及び品質管理の基準」という基準を定め、不良品の発生を防いでいます。
このフェーズでは、医薬品の製造に関する手順書やGMP適合性調査など、工場や製造関連の翻訳文書が発生します。
発生する翻訳文書:
- GMP適合性調査関連
- SOP
- FDA査察資料
- バリデーション計画書/報告書 など
市販後調査
限定された条件化の治験とは違い、市販後の薬は長期間に渡ってより多くの患者にさまざまな条件下で使用されるため、想定していなかった副作用や有害事象が発生することがあります。そのため医薬品は市販後もさまざまな調査が行われ、治験では得られなかった有効性や安全性の情報を収集します。
こうした調査はPMS(Post Marketing Surveillance)といわれ、収集した情報を医療関係者に速やかに伝達することで、副作用の被害拡大防止や医薬品の適正な使用方法の確立に役立てられます。
医薬品による副作用が発生した場合、企業(製造販売業者)は決められた期間内にPMDAに報告する義務があり、副作用の症例報告書など、非常に短い納期での翻訳が要求されます。
発生する翻訳文書:
- 製造販売後臨床試験実施計画書
- 安全性定期報告書
- CIOMS
- 症例報告
- RMP
- 使用成績調査
- 添付文書
- インタビューフォーム など
まとめ
医薬品開発ではさまざまな文書が発生し、必要な専門知識、翻訳分量や納期などもさまざま。
わずかなミスが医薬品開発の遅れや患者の命にも関わるため責任重大で、準拠すべきルールも多く、医薬翻訳は難易度の高い翻訳といえます。
そのため、文書が発生する背景や用途を正しく理解し、日々の最新情報にアンテナを張りながら、自身の専門性を高めていく姿勢が求められます。
この記事へのコメントはありません。